ハノンと言えば、指の練習。苦手な方も多く、苦労する割には、あまり効果が実感できない人も多いようだ。そこでいろいろと工夫をして、リズムを変えたり、フォームを改善したり、動作を見直したり、姿勢を正したりとやるわけで、どれもきっと役立つだろう。
しかし、個人的な感覚で、特に何の根拠もないが、最も効果的な練習方法はとてもシンプルだ。
両手に慣れたら「片手ずつ」練習する
これだけ。普通は、両手でできたら片手に戻して練習しようとはしないだろう。
もう少し言えば、
動きの悪い手の練習回数を、動きのいい手の最低2倍以上に増やす
ハノンは、両手で練習することの意味は薄い。時間の短縮程度だ。ユニゾンの練習にはなるかもしれないが、慣れれば別に難しいことではないし、ピアノ作品の中でユニゾンが出てくることは珍しくはないが少ない。出てくる場合は、ハノンピアノ教本のフレーズでは対応できないことが多く、結局、その部分だけ取り出して練習する羽目になる。だから、ユニゾン練習の基礎として2、3曲やれば、あとは作品に出てきた時に慎重に練習すれば事足りる。それよりも問題なのが、右手と左手で全く同じように動く人は稀で、ピアノの場合は、右手が細かい動き、左手が和音が得意になる傾向がある。どの指も同じように動かすという目的を考えてみると、両手で同じ量の練習をしても、左右それぞれの得意分野の「差」は縮まらない。
ハノン以外でも言えることだが、左右の手は、お互い支え合う感覚があり、動きのいい手が、動きの悪い手を引っ張っていく。動きのいい手は、動きの悪い手に合わせて練習することになり、動きの悪い手は、二歳児が転びそうになっても親が引っ張って歩かせるような感じで、勢いで弾いてしまう状態になる。だから、片手で練習するとリズムや速度が安定しない。
ハノンを練習していれば、何となく左右の動きに違いがあるのがわかっているのではないだろうか。思い切って、動きの悪い手だけを練習してみてほしい。
時間があれば、レガート奏法だけではなく、工夫した練習も取り入れたいところ。まず「速度を変える」ことを試してもらいたい。速くするのではなく、ゆっくりだ。無駄な力が入らないようにする練習になる。そして「リズム変奏」の効果も絶大だ。出版社によってパターンは違うが、日本の出版社の場合は、必ずリズム変奏の譜例が掲載されている。全部ではなくて、苦手なリズムだけ行えばいいが、スタッカートは指を強くし、手首を軽くする効果があるので、入れておいた方がいい。迷うのであれば、実際によく出てくる付点リズムを選ぶといいだろう。
左手だけやるのもいいし、右手や両手の練習を加えるなら、左手の練習を右手(もしくは両手)の練習の2倍から3倍に設定したいところ。あまりいないとは思うが、左手の方がよく動き、右手の動きがよくないという場合は逆にすればいい。
個人的には、他に練習している曲があるのなら、ハノン31番までは、左手の練習だけやっておけばいいと考えている。1回の練習時間も短くて構わない。
いずれにしても、ハノンを弾きこなすことが目的ではなく、その先にはあこがれの曲が待っている。練習のための練習にならないよう注意しよう。
ハノンピアノ教本の解説は、次の記事でも解説している