効率よく曲を仕上げる戦略

プロであれば、長時間かけて練習し、納得いくまで練習するだろう。しかし、趣味でピアノを弾く場合、完成度を求めると練習に時間がかかりすぎるのが難点だ。しかも、弾けない段階は、とてもつまらない。いろんな曲が弾けるようになったら、ストレス解消にでもなるのではと始めたのに、逆にストレスがたまってしまいそうだ。練習を続ければ本当に弾けるようになるのか不安にもなる。練習を積めば、いつかは仕上がる日が来るのだが、練習はなるべく効率的に行い、練習時間を短くしたいものだ。

ピアノは練習が必要、難しい曲は時間がかかるというのは、ピアノをやっている人は誰もが実感していることだと思うが、根性で曲を最初から最後まで弾き続けるような練習をしている方もいるかもしれない。それも、一つの方法だが、今回は効率的な方法を考えていきたい。

STEP1 音源を聴く、原曲を聴く

譜読みの訓練をしている段階は、まず自分で読むことが大切だ。ある程度、楽譜がスラスラ読めるのであれば、誰かが演奏している音源を探し、先に聴いた方が、間違えも気づきやすく効率的だ。ただし、なるべく複数の音源を用意すること、音源を信用し過ぎないことは大切。めちゃくちゃな演奏している人もいることは、当サイトの演奏を聴けば実感できるだろう。最終的に、自分で楽譜を研究し、どのように演奏するかを決めるのは自分自身だ。

原曲がある場合は、必ず聴こう。ピアノ向けにアレンジすることでイメージが変わっていることもあるが、元の雰囲気を知っておくことは、演奏を考えるのにとても役立つ。

STEP2 譜読みを行う

弾き始める前に、まずは楽譜を見てみよう。自分の持っている知識の範囲で構わないのでどんな曲かを分析する必要がある。基本的なところでは、調号(シャープ、フラットの確認)、拍子、変調、構成、和声などを確認してみよう。気づいたことを書き込むかどうかは人によるだろう。書く場合は、書いただけで満足しないで演奏に活かすこと、書き込まない場合は、せっかくの気づきを忘れて通り過ぎないよう気をつけよう。

きちんと曲を分析してみたい場合は、下記の書籍を参考にしてみるといいだろう。

和声と楽式のアナリーゼ バイエルからソナタアルバムまで 島岡譲 著/専門書 音楽之友社 教本 音楽

STEP3 見た目で難しい部分を先に練習する

練習を効率化する上で最も大切なのは、「難しいところ」を前もって探すことだ。速くて複雑なパッセージ、覚えるのが大変そうな和音、見たことのないリズムパターンなど、明らかに他の部分よりうまく演奏できない部分をピックアップし、その部分だけ、先に練習してしまおう。

また、暗譜をしない場合は、譜めくりのタイミングも決めておこう。譜めくりをする場合は、その前後で暗譜せざるを得ない部分が出てくることが多いので、極力、この段階で暗譜してしまうのが好ましい。

STEP4 最初から最後まで一通り弾く

長い曲の場合、時間がなければ分割してもいいとは思うが、全体像をつかむ意味でも、一度、最後まで弾いてみよう。その際のポイントは、極力止まらない速さで演奏することだ。譜読みに苦労しそうな部分や難しい部分は、予め練習しているので、それでも止まってしまうところは、隠れた難所だ。その部分は覚えておき、後で部分練習を行う。

一通り演奏する際に、確認しておくことは、メロディーの流れや左右のバランスだ。どのように抑揚をつけるのかイメージしながら練習しよう。

STEP5 苦手部分の練習

STEP3と4で、苦手部分を確認したので、あとはそれをつぶしていく作業だ。フレーズごとでも引っかかるのであれば、もっと細かく区切って、指を慣らしていこう。1音だけから始めても構わない。最終的に1フレーズをきれいに弾けるように心がけよう。苦手な部分では、一つのフレーズが終わり、次のフレーズに移るときに引っかかることもあるが、フレーズを繋ぐ部分の動作を繰り返し練習した上で、フレーズ全体の練習をしよう。

なかなか弾けない場合は、片手ずつの練習を取り入れると、迷いが少なくなるので、効率的に反復練習ができる。苦手なところほど、無意識でも動く状態にすることが望ましい。

注意したいことは、ミスするための練習をしないことだ。何十回もミスをしながら練習を続けるよりは、ゆっくりした速度で、拍子の中で迷う余裕を与える。繰り返すうちに迷いがなくなるはずだ。迷いがなくならない場合は、さらにフレーズを短くし、迷いの原因をあぶり出そう。また、少し時間を置くと記憶が定着して、あっさりできることもある。

技術的に難しい部分は、技巧的な練習曲の中から似ているものを選び練習すると、早く身につくことがある。代表的なものではハノンピアノ教本だ。ハノンの中にはだいたい似たような練習曲があり、単純な作りで反復練習ができるので効果的だ。物足りないなら自分でアレンジしたり、練習中の曲と同じ調に移調して練習してもいいだろう。

STEP6 ゆっくりした速度で、ミスのない演奏をする

細かい注意が払える速度は人によって違う。最初から、ある程度の速度で演奏してもミスをしない人もいるだろう。ただ、多くの人は、自分の注意が及ぶ以上の速さで練習を始めてしまう。これが演奏の完成度を落としてしまう原因の一つだ。練習のミスは、繰り返すと癖になり、結局は、ミスをするための練習になってしまうことがある。

何度も間違えながらできるようになるまで練習するのは素晴らしいことのように感じるが、すでにSTEP4で、部分練習を行い、必要な技術は身についているはずだ。

音を迷っても拍子の中で解決できる余裕のある速度で演奏する。それを繰り返すうちに、迷いがなくなってくる。それが難しい箇所でも力まずに演奏するコツだ。ゆっくりした速度で何度練習しても迷いが取れなかったり、ミスが連続する場合は、部分練習が不足しているので、STEP4に戻ろう。

部分練習ではミスなく演奏できても、通して弾くとなかなかうまくいかないことがある。その場合、曲を分割して練習を行う。部分練習ではないので、場面ごと、切りのいいところで区切るようにしよう。

STEP7 片手ずつ練習する

暗譜が必要な場合、特に発表会など人前で演奏する目的がある場合は、必ず片手ずつの練習を取り入れよう。両手の練習しか行っていないと、片方の手がミスした場合、他方の手に連鎖してミスする可能性が高く、演奏が止まってしまうことがある。しかし、片手ずつの練習を丁寧にやっておくと、片方の手がミスしても、他方の手はそのまま演奏でき、演奏を止めることなく、それに合わせてミスした手も入り直すことができる。演奏を止めずに元に戻すことができるかもしれない。

普段の練習でミスなく弾けていたとしても、緊張したり、普段と違うピアノを使うと、予期せぬところでミスが出ることがあるので、念には念を入れよう。

さらに、両手で演奏することで、お互いの弱点を補っていることがある。例えば、右手だけでは速くてリズムが安定しないパッセージでも、左が拍子を打つような伴奏だった場合は、右手を引っ張ってくれる。しかし、それではいくら練習しても技術的な余裕が出てこない。その状態を改善するには、片手で練習しよう。両手でうまくごまかせていた弱点が出てくるかもしれない。

STEP8 ゆっくりから指定の速さへ

もちろん、曲の途中から速度を増していくわけではない。ミスなくできたら、次の演奏では、少し速くしていくということだ。間違えたら、その次に演奏する際、速度を少し落とすこと。決して、曲の途中で速度を変化させてはいけない。何度も同じ箇所で間違える場合や間違えそうという恐怖心がある場合は、STEP4からやり直そう。

人前で演奏する場合はもちろんのこと、普段のレッスンの課題であっても、前日、または当日だと、定着しない可能性がある。週一回のレッスンだとなかなか厳しいかもしれないが、2日前、できれば3日前に、このステップまで持っていきたい。

初めての場合、このSTEPは、手間や時間がかかると感じるかもしれない。しかし、慣れると練習の目的が明確になり、非常に効率的だ。さらに、時間がある方は、次の方法も取り入れてみよう。

録音(録画)するだけで上達

あとで一生懸命聴き直して改善するべきところを探すなどという真面目な行為はする必要はない。もちろん、時間があればやった方がいいだろう。しかし、社会人の方などはさすがに時間が取れないだろう。

録音、録画するだけで、集中力が増す。録音の方法としては二つ考えられる

    • 練習をずっと録音する
    • 1回だけ録音する

お勧めは、練習のまとめで、練習した曲(または練習した範囲)を1回録音すること。曲数が多い場合は、主要な曲のみでもいいと思う。ずっと録音していると録音しているという意識がなくなるが、一発勝負となれば、上手な演奏を残したい気持ちになるので、より集中できる。特に、レッスンや本番のときにミスがでやすいタイプの人は、絶対に撮り直さないルールを作ると、ほどよい緊張感も出る。

録音したら必ず聴き直さないといけないわけではない。ただ時間があれば、聴いてみると自分の演奏を客観的に聴くことができる。大きくミスをしたところよりも、うまく演奏できたと感じた部分が実はきれいに弾けていなかったり、逆にうまく表情が出なかったところが、ちょうどいい程度の抑揚がついていたりと新しい発見がある。特に大きい音は、雑に聴こえたり、逆に迫力が足りなかったりと、演奏しているときとは違う印象を受けることだろう。

気軽にいい音で撮りたいなら、音楽用のビデオカメラやボイスレコーダー、またスマートフォンに接続できるマイクなどがあると便利だ。値段も機能により開きがあるので、いろいろ比較してみるといい。

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楽譜を眺める

場所を選ばずにできる練習は、楽譜を見ながら自分の演奏を想像することだ。練習している気持ちで楽譜を眺めて、自分の演奏を想像してみよう。ミスが多い箇所では、迷いが生じるはずだ。意外と楽器がなくても、練習できることを実感するだろう。普段から長時間の練習をしている場合は問題ないかもしれないが、発表会の練習なので普段以上に練習時間を増やしている場合は、手を傷める心配もあるので積極的に試したい。

楽譜なしで演奏をイメージすれば、暗譜ができたかどうかの確認もできる。

右手、左手、足、楽譜、意識しているのはどこか、演奏中、自分は何を見ているのか、忠実にイメージしよう。

さらに完成度を上げる練習

人前で演奏する場合は、曲が弾けるようになってからも、さらに弾き込みを行うと思う。ただ漠然と回数を重ねるのではなくて、いろんなアプローチを試してほしい。ただし、かなりの時間を必要とするので、日常の課題曲で行うのは、難しい。趣味として、仕事の合間に楽しんでいる方は、発表会前でもここまでの時間は取れないかもしれない。

    1. ミスしたり思ったような演奏ができなかったら、その時点で演奏をやめて、最初からやり直し
    2. ミスしてもなにがあっても最初から最後まで止まらずに演奏する
    3. 朝起きてすぐに演奏する
    4. 運動した直後に演奏する

やり過ぎはよくないので、バランスを考えて取り入れよう。特に3.4は、悪条件で演奏する練習だから体調なども考えて調整するといい。1は、ミスしたら最初からやり直し、満足行く演奏ができるまで繰り返す練習だ。音のミスだけではなく納得できない部分があれば最初から演奏をやり直す。1回だけいい演奏ができたからいいわけではない。それはたまたまうまくいっただけではいけない。5回程度は連続して、いい演奏ができるまで練習を続けよう。人前で演奏するときは、練習の成果を出したいものだが、普段と違う状況のため、トラブルも起こりやすい。うまくいかない場合に止まってやり直す練習をしているだけだと、本番のときも止まってしまうかもしれないので、2の練習を必ず取り入れよう。全くミスをしないのであれば、わざとミスをして、演奏の崩れを最小限にとどめる練習をしよう。

編集後記

「さらに完成度を上げる練習」は、特に時間を要するので、趣味の方は、特別なとき以外は時間が取れないだろう。しかし、それ以外のSTEPは、一見、とても手間がかかりそうだが、事務的に行うことができ、慣れれば、さほど時間がかからない。最初は、短い曲で試してみることだ。また、このSTEPは一例であり、自身に合った方法に変えていくといいだろう。

上手に弾きたいのは、当然だと思うが、ピアノと向き合える時間は、各々違う。完成度をどのように設定するかは自分次第だ。しかし、目指す完成度の違いがあっても、できないところをできるようにして、全体をスムーズに演奏することが目標であることは同じだ。そして、近道はないので、課題に真正面から取り組んでいこう。

 

ジユン

ジユン練習って最高!

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東京都出身。仕事は、ピアノ教えたり、たまに弾いたり、曲を書いたり。ピアノ好きだが練習は大嫌いであまりしない。そのため、演奏はミス多め。好きな言葉は、「かゆいところはかゆいまま」。好きなスポーツは野球。ニックネームは、兄貴だけが使う呼び名、由来は謎。
年齢は、理由もなくなんとなく内緒にしていたらどんどん言いづらくなって、いまだなんとなく非公表。

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