作曲家

シャルル=ルイ・アノン(Charles-Louis Hanon, 1819年7月2日 – 1900年3月19日)

ハノンについて

 シャルル=ルイ・アノン(Charles-Louis Hanon)は、フランスの作曲家兼ピアニスト・オルガニスト。フランス共和国ダンケルク近郊のルネスキュールで生まれ、同国ブローニュ=シュル=メールで没す。生まれた年は、1819年とされているが、『音楽大事典』(平凡社)によると、1920年とする説もある。
 日本では英語風もしくはドイツ語風のハノンの呼び名で有名。ピアノのテクニックを研究し、ローマのポンティフィカル サントセシル音楽院で作曲の名誉教授だった頃、その成果である「60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト(Le Pianiste virtuose en 60 exercices)」(通称ハノン※1)を書いた。当時、各国で大反響を呼び、音楽学校の教授はみな称賛したと言われている。現在でも、少なくとも日本ではピアノ教則本のスタンダードであり、広く用いられている。

※1 以下、本項目では「ハノン」が「60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト(Le Pianiste virtuose en 60 exercices)」を、アノンが作曲者を示す。

アノンの生涯

 フランス・ルネスキュールの敬虔なカトリックの家庭に生まれた。地方のオルガニストに学んだ後、1846年、27歳でブローニュ・シュル・メールに移住し、1853年まで合唱指揮者、及びオルガニストを勤める。その後は、兄弟とともに歌唱・ピアノの個人教師をしながら作品を出版した。また、オルガン演奏や地方の音楽指導者としても活動した。フランシスコ派の第3階位や聖ヴァンサン・ドゥ・ポール協会員(国際的慈善事業団体)として、敬虔な一生を送った。

アノンの音楽教育

 アノンは、ピアノの技術と指の独立性・器用さの向上に関心を持ち、「60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト(Le Pianiste virtuose en 60 exercices)」では、指の力、敏捷性(素早く反応し、俊敏な動作や行動をする能力や特性)、協調性、速度など、ピアノ演奏のさまざまな要素を向上させるための練習曲がまとめられている。1873年、アノンが54歳の時に地元ブーローニュで出版されると、公式にパリ音楽院で採用され、頻繁に版を重ねる。諸言語に翻訳されるようになったが、英語版は、1984年に出版された。

 アノンのピアノ教育の目的は主に次のものが挙げられる。

  1. 左右のすべての指の平均化
  2. ピアノ演奏時の問題点を整理し、単純化する
  3. 独習でも学べる
  4. 効率の良い練習方法を発見する

 このことから、アノンの教育は合理性を重視していることがわかる。『ニューグローヴ世界音楽大事典』(第2版)の「ハノン(Philippe Rougier執筆)」では、ハノンが広く受け入れられた理由として、時のほかの教則本よりもシンプルだったからと分析している。これは、教会のハルモニウム(小型オルガン)の設置に伴い普及した、教会で使われる礼拝のための単旋聖歌の和声付け(伴奏法)のメソード”SYSTÈME NOUVEAU pratique et populaire pour apprendre à accompagner tout plain-chant(1859)”も同様である。アノンは、この教本の功績から、ローマ法王よりローマ・サンタ・チェチーリア協会の「マエストロ」の称号を与えられている。

作風

 アノンの作品は、教育目的、もしくは一般大衆に向けたものであり、宗教的で道徳的なものが多い。しかし、少数ではあるが、ファンタジーやカプリッチョといったピアノ作品や声楽作品も作曲している。

ハノンピアノ教本について

 ハノンピアノ教本(60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト)は、ピアノ学習者やプロのピアニストに広く使用されており、技術的な能力の発展と向上に役立っている。練習曲は段階的に構成されており、簡単なパターンから始まり、次第に難易度を上げ、スケール、アルペジオ、オクターブ、トリルなど、さまざまな技術的な課題を網羅している。

 一部の批評家からは音楽性よりも機械的な技術に焦点が当てられすぎているとの意見もあり、ハノンを練習に取り入れたことは、一度もないと言っているピアニストもいる。そのことからも、ピアノ学習において、必須ということではない。しかし、ピアノ学習者やピアニストにとっては指の独立性、協調性、総合的な技術力の向上に役立つ貴重な練習曲であることには変わりはない。多くのピアニストが、ハノンの練習曲を日々の練習に取り入れ、技術力を維持し向上させるために活用している。

 このように、ハノンは主に技術の向上に焦点を当てているが、当然、ピアニストは表情豊かで、音楽性を育てる練習も大切であり、練習は目的を意識して、バランスを取ることが重要だ。その点については、アノンも重要視しており、J.S.バッハやハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなどの作曲家たちの作品を引用した「大作曲家の名曲より要約(Extrait des Chef d’euvre des Grands Maltres)」を出版するなど、作品を通して積極的に学ぶことを推奨している。ハノンの練習は、総合的なピアノの練習課題の一部として活用されるべきであり、もちろんアノン自身も、同様に考えていただろう。

作品

  • 60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト(Le Pianiste virtuose en 60 exercices)
  • 初歩のピアノ教本(Methode Elementaire de Piano)
  • 大作曲家の名曲より要約(Extrait des Chef d’euvre des Grands Maltres)
  • 50歌曲集(50 Cantiques Choisis)

※ その他、教則本や音楽作品もある(ピアノ以外にオルガンや声楽曲を作曲している)。

無料楽譜

Charles-Louis Hanonの楽譜 – 国際楽譜ライブラリープロジェクト

参考

  • ウィキペディア
  • ニューグローヴ世界音楽大事典(第2版)
  • ハノンピアノ教本 全音出版社
  • ハノンピアノ教本 音楽之友社
  • ピティナ 記事「特別番外編 祝!ハノン生誕190年記念」
  • ピティナ ピアノ曲事典

ジユン

東京都出身。仕事は、ピアノ教えたり、たまに弾いたり、曲を書いたり。ピアノ好きだが練習は大嫌いであまりしない。そのため、演奏はミス多め。好きな言葉は、「かゆいところはかゆいまま」。好きなスポーツは野球。ニックネームは、兄貴だけが使う呼び名、由来は謎。 年齢は、理由もなくなんとなく内緒にしていたらどんどん言いづらくなって、いまだなんとなく非公表。

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